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建築工房 sora

宮城の建築工房 自分らしい自由な日々の記録


by 建築工房sora

私には使えません。

私には使えません。_a0129702_21153836.jpg
本日のSunset

高速(東部道路)から走行中のものなのでBureBureで失礼します。

さて、工事も完了に向けてとっくに折り返し地点は過ぎている多賀城市 C様邸。

途中大工さんが別工事で抜けておりましたが今週から再開しています。

さて、もっと早くにブログで報告というか何と言って良いのか分かりませんが書いて置きたい事がありました。(今回はとても専門用語が出てきます御注意を)

それは津波被害住宅の直し方についてです。

このブログでも鋼製束をプラスチック製に替えたり、スクリューワッシャーを付け替えたり等の話しはしておりましたが、その被害部分に使用する金物についてです。

正直他の工務店、建築会社さん達はどうしてるんだろうか?といつもいつも疑問で仕方ありません。

やっぱり普通に鉄釘を打ってんだろうか。って。

まず、木造在来軸組工法の床の造りについては大きく分けて「根太組み」と「根太レス」があります。

10年程前までは根太組みの方法が主流でしたが、それ以降は工期やコストの面から根太レスの方法に変ってきました。

根太組みの方法とは土台や大引きの上に根太と呼ぶ45㎜×60~105の角材を@303~455で打ち付けその上に合板や挽板を敷き込む方法です。この場合水平方向に力が加わった場合その力に対するのは火打ち材と呼ぶ部屋の四隅に斜めに設けた短くて太い筋違いの様なものになります。

一方、根太レスは土台や大引きの上に厚み24㎜~28㎜の構造用合板を敷き込むもの。説明を聞くだけで根太レスの方が仕事が速そうです。そして水平方向に対する抵抗もこの合板が火打ちの代わりの役割を担います。

建築工房soraの家は根太レスの方法を採用しております。

と言う事はその水平方向の力を持たせるためにも何で打ち付けるのかとても重要になってきます。

私には使えません。_a0129702_2222277.jpg写真は解体時構造用合板から抜いたCN75の釘達。先端の2cm程は錆がひどくありません。構造用合板が24㎜ですから土台や大引きの表面から3㎝程は影響があった事になります。

ただし、土台や大引きの表面から3㎝分浸透したのでは無く毛細管現象による影響もあると思います。

しかし、どちらの工法も色々な施工基準書を読んでも止め付けるために使用する金物で認められているのはN釘やZ釘、CN釘と呼ばれるいわゆる鉄釘だけ。

他にも認められているビス類もありますがそれらも鉄が基本のコーティングされたものばかり。

はて、困ったものです。土台や大引きは海水に浸かりました。そこにまた鉄釘を打たなければなりません。

瑕疵担保責任保険には入っている住宅とは言っても責任を取るのは私、あくまでも私の身に何かあった場合の保険が瑕疵担保責任保険。

どう考えても鉄釘をまた使用した建物の責任なんか取れません。

ここから私にとってはとても苦しい調査が始まりました。

インターネット、様々な施工基準書、カタログ、どれを読み漁っても錆に強い(要するにステンレス)の釘やビスで認定の取れている商品なんかありません。

釘、ビスを製造しているメーカーは全てと言って良い程問い合わせました、が無かったのです。

どうなってんだ技術大国ニッポンとさえ思いました。

私は決心しました。認定が取れていなくともせめて試験数値の分かる根拠の表せるステンレスの釘かビスを使おう。と。

それと同時期に目を付けたビスが現れました。それは若井産業㈱のデッキ専用ビスと言う商品です。

ステンレスSUS305J1でステンレスを基材としたビス類の多くは410系が多いのですが、その中でも強度も強く錆にも強い304系です。太さも6㎜と太く長さも長いものもあり、ねじ切りがされていない丁度せん断力の掛かる部分がフラットの造りである事が着目した理由です。

そしてこの商品の強度がいくつ位なのか分かれば使用する本数の増減で安心できる根拠を得る事が出来ると考えました。

それにはまず現在認められているN75やCN75の強度がいくつなのか知る必要があります。

今回主に必要な強度は水平力に対してなので、そうすると釘ビスの引抜耐力とせん断力の内、せん断力がいくらなのかという事がとても重要になってきます。

そこで調べた所、N75のせん断力は66kgfでCN75のせん断力は75kgf。この数値が基準となります。

そして、使用を考えているデッキ専用ビスは・・・試験結果がありません。若井産業㈱様へ問い合わせた所せん断力の試験はしていないが曲げ試験だけは早速行っていただきました。

本当はせん断力がいくつなのか知りたいのですがここは仕方ありません。曲げ試験の数値も無いよりはあった方が良いのでお願いしました。

そして、他のメーカーさんになるのですが、SUS304系コーススレッドのせん断力が分かる資料を入手しました。

その資料からすると試験体はコーススレッドのねじ切り部分のせん断力を試験したもので、太さは5.5㎜。せん断力は65.3kgfと言う数値でした。

デッキ専用ビスは太さが0.5㎜太い事、実際にせん断力が加わる部分がねじ切り部分では無く首の部分である事を考えるとこの数値よりは強度がある事がうかがい知れますが試験結果が無い限りそれは根拠にはなりません。

よってこの65.3kgfが1本当たりの強度だと考えるのが安全です。

そして、もともとCN75(せん断力79kgf)を使用していましたのでこれを基準に考えるとおよそ87%の強度と言うことになります。

私には使えません。_a0129702_2341975.jpgN75もしくはCN75で24㎜床合板を止めるける場合、@150㎜が基準となります。

床合板短辺方向910㎜に対して@150㎜は7本の釘を打つ事になるので79kgf×7本=553kgf

それから逆算で、553kgf÷65.3kgf≒9本必要となり、実際その様に施工させて頂きました。

しかし、これを見る人が見ればこの製品自体の試験結果は無いし、認定のものでも無い。インチキな仕事だ!と思う人も居るかも知れません。

でも、残念ながら今の日本にこの津波被害の住宅を真っ当に直せる法律も製品も無いのです。

ここまで調査して、考えて、お客様のことを思って根拠を示した仕事をしていても鉄釘を打ち込めと言えるんですか?

これから30年以上もローンを抱えて生きて行くのにいつ錆びて朽ち果ててしまうかも分からないものなんて私には使えません。

(床合板以外も既存の土台等に関わる釘ビス類は全てステンレスを使用させていただいています。また耐力壁を構成するダイライトに関しては、一部(被害の大きな所)の外壁を剥がし確認した所、確かに錆は確認しました。が色々が都合上今回全ての外壁を剥がして釘の増し打ちや張替までの必要性は無いと判断しましたが、5年後か10年後には必要になる事でしょう、お施主様にもその旨は伝えました。)

ちょっと熱くなってしまいましたが、そう言う事です。

(今回の工事は私が資料を集め判断し行っています、若井産業㈱様は何の関係もありませんので付け加えておきます)



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by koubou-f-style | 2011-10-28 00:08 | Trackback | Comments(0)